感想

くらげなす漂うアメリカンアパレル

ムーン・パレス

ムーン・パレス

 

ムーン・パレス (新潮文庫)

ムーン・パレス (新潮文庫)

 

 

ポール・オースター

柴田元幸

新潮文庫

 

 

 

登場人物

マーコ・スタンリー・フォッグ:通称MS。この小説の主人公で語り手

ビクター・フォッグ:主人公を育てた伯父さん。クラリネット奏者

エミリー・フォッグ:主人公がこどもの頃、車にはねられて亡くなった母親

キティ・ウー:主人公の彼女。チャイナドレスが似合う

デイヴィッド・ジンマー:主人公の友人。詩を書いている。のちに家庭のパパに

 

トマス・エフィング:主人公を雇った車椅子の盲人。威張り散らす金持ちジジイだが…

パベル・シュム:故人。エフィングの以前の雇人。車にひかれて亡くなった

ミセス・ヒューム:エフィングの家政婦。主人公に多くを教えてくれた

チャーリー:ミセス・ヒュームの弟。長崎原爆投下計画にかかわり発狂した

 

ジュリアン・バーバー:エフィングの本名

ソロモン・バーバー:ジュリアンの息子。160キロの巨漢

エリザベス:ジュリアンの妻であり、ソロモンの母親。重い精神疾患を抱えている

 

エドワード・バーン(テディ):18歳。ジュリアンの友人。地誌学者になるのが夢

ジャック・スコーズビー:40代後半の山岳ガイド。口のうまい小男

トム:洞穴の死体

ジョージ:「口裂けジョージ」。トムの友人。頭のたらない、優しいインディアン

グレシャム兄弟:犯罪者コンビ。洞穴の死体、トムを殺した犯人

 

 

 

あらすじ

1章:主人公は、ニューヨークのアパートで一人暮らしをしている大学生MS・フォッグ。1967年に唯一の肉親であるビクター伯父さんを亡くした時から、精神の縁をさ迷い始める。ビクター伯父さんの遺産である1,492冊の蔵書を読んでは古本屋に売って、微々たる金銭で暮らす。友人ジンマーや、のちに彼を助けてくれるキティ・ウーとすれ違いつづけていた1969年の夏、電気代を払えず、家賃も払えず、アパートメントから追い出されてしまう。

2章:1969年8月。セントラルパークでホームレスな暮らしを始めるMS。伝染病にかかり烈しい嘔吐をする中、パーク内に洞穴を見つける。そこで三日三晩雨風をしのぎ、出てきたところをキティ・ウーとジンマーに救出される。

3章:9月。ウェストヴィレッジのジンマーのアパートに居候する。偶然が重なり徴兵から逃れる。台湾出身、元在日大使の子でジュリアードの学生(ダンス専攻)のかわいこちゃんキティ・ウーと恋人同士になる。シンクロするフォーチュン・クッキー

4章:11月1日。86歳、車椅子の盲人トマス・エフィングに雇われる。ウェストエンド・アベニュー84丁目のエフィング宅に住み込んで、朗読や車いすを押しての散歩などの業務に従事。エフィングがMSに課した最も重要な仕事=死亡記事の作成に携わる。エフィングの語るエピソードを聴き、それをノートに書き留める。

この、エフィングの語る自身のエピソードは4章~5章における作中作といっていいものになっている。4章では、若かりし頃のエフィング(ジュリアン)が仲間のバーンと一緒に旅に出て、壮絶な体験をしたことが語られる。

5章:エフィングの語りの続き。あやうく死ぬところだった彼が、洞穴を見つけたために生き延びるというエピソードである。MSはノートに書き留めたエピソードをタイプライターで清書する。

また、エフィングには息子がいるということを知らされる。ソロモン・バーバーである。死後、この息子ソロモンに死亡記事を送ってほしいと遺言されるMS。

6章:エフィングが亡くなったあとで、死亡記事を指定された場所に送る。エフィングの遺産により、キティとチャイナタウンの一角に200平米のお部屋を持ち、素晴らしい日々を送ることができる。

エフィングの息子で巨漢のソロモン・バーバーと会い、キティと3人で仲良くなる。

だが、キティとの間で避けがたい諍いが起き、別れることとなる。

7章:絶望したMSはソロモン・バーバーと一緒に、(エフィングの死亡記事にあった)洞穴を探す旅に出る。やがてある事件が起き、物語は収束へ向かう。

 

 

感想

・1章で卵星爆発したあたりから、「なんでこのひとバイトしないん?」って思っちゃってた。その理由は3章に、冗談めかしながらも書いてあった。

「人間の人生というのは、無数の偶発的要素によって決められるのです。人は日々、これらの衝撃や偶然に耐え、何とか平衡を保たんとあくせくしています。2年前、個人的かつ哲学的理由から、僕はこの苦闘をやめてしまおうと決意しました。―(中略)―世界の混沌に身を委ねてしまうことによって、何か隠れた調和を世界が啓示してくれるんじゃないか、おのれを知るに役立つ何らかの形なりパターンなりが見えてくるんじゃないか、そう思ったのです」

※ちなみに、徴兵検査の精神科医との面談でかました、この「迷演説」でもってMSは徴兵を免れる。

 

・私の好きなパートは、4章~5章のトマス・エフィング編。魅力的な逸話の数々に参っちゃう。テスラを透かす諸行無常電気椅子を生んだエジソンの殺生パフォーマンス、ブレイクロックの静かな絵画。ポール・オースターのすさまじい描写力が柴田元幸と官能的にダンスしてる。らぶ。

 

「空の中のある一点を基準として定めなければ、地上における自分の位置を正確に決めることはできない、とバーンは言った。―(中略)―月や星との関係においてのみ、人は地上での自らの位置を知ることができる」

エフィングが感銘をうけ、ことあるごとに思い返してきたバーンの言葉は、MSが「自分より大きなもの」を知ってからやっと始まりの地点に立てたこととリンクしている。物語には他にもこのように、リンクする箇所がふんだんに散りばめられていて、キーワードキラキラ光って見える。ムーン・パレス、フォーチュン・クッキー、太陽と月と地球、惑星がしかるべき位置におさまらない限り笑わなかった母親、月を旅する人、ナバホ族の髪飾り。

もうさ、キュンキュンしかしない。らぶ。

 

・エンタメのにおいのついた楽しい仕掛けがいっぱいの小説なんだけど、それだけじゃなくて、心にずーっと残ってくれる。なんかほんと、しあわせだー。

 

いわばそれは世界の不可解さの結節点だった。

 

・自分が貧乏学生だったころを思い出したナー。パスタゆでて、ケチャップだけつけて食べてた。1日にグレープフルーツ一個ってこともあった。脚がいたくてもヒールを履いた。そして野宿、野宿野宿。いくつものおうち、洞穴。MS、わかるぜ、ひとりでゲロを吐くときが、いちばん、孤独だよね。

 

 

 

 でてくる本detekurubon 

 本書ムーン・パレスでも出てきた、ウエスト・ヴィレッジの飲み屋ホワイト・ホースがでてきます!ニューヨーク旅きぶん。

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 セントラル・パークをまた違った目でめっちゃ見る!

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