感想

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第159回芥川賞受賞『送り火』高橋弘希

文學界2018年5月号初出の高橋弘希著『送り火』が、第159回芥川龍之介賞を受賞したそうです。おめれ~と~!

 

送り火』あらすじ

東京都内から津軽地方へ引越し、廃校直前の中学校に転入した中学3年生の歩(あゆむ)。新しい中学校は3学年合わせて生徒12人のみ。1クラス40人だった都立中学とはだいぶ勝手が違いそうだ。だが歩は繰り返し転校してきたため、新しい集団に馴染むのなんて余裕だと思っていた。

「東京って、どった街なんず?」―(略)―「別にここと変わらないよ。」

そんな歩は、中2の時に暴行事件を起こしたという同級生の“晃”や、その暴力のターゲットである“稔”、他数名とつるみ、この地域特有の花札である“燕雀(えんじゃく)”に興じるようになる。

燕雀は金銭(お菓子レベル)を賭けて行われることもあったが、そのほかに窃盗や、硫酸を皮膚にたらす人を決める“回転盤”、縄跳びで首をしめる“彼岸様”などの罰ゲームが課せられることもあった。そして燕雀に負けるのは毎回、晃のターゲットである稔だった。

歩はいじめられている稔を不憫に思い、コーラを分けてあげたりなどしながらも、自分には関係ない、と、とりあえず空気に合わせて平穏に過ごそうとしていた。(正直、晃の独善と狂気に魅惑されている部分もあったのだ。)

しかし灯籠流しの日、騙されて呼び出された歩は、“回転盤”や“彼岸様”で晃をいじめていたという先輩ヤンキーたちにボコられる。“サーカス”・“脱穀ごっこ”・“八反ずり”・“田打車”…やべえ残酷ゲームの名前がばんばん出てくる。この…いかれクリエイティビティヤンキーが…。

彼らは人殺しをするつもりはない。しかし人殺しをしてしまうかもしれない。殺意なく人を嬲り殺してしまうかもしれない。

歩、コンナハズジャナカッタ。そんなお話である。

 

送り火』感想

遊びと暴力の境目があいまいになる環境や時期というのがあるのかもしれません。たぶんクリエイティビティヤンキーたちは、悪感情などなく、純粋に人間の反応をおもしろがっているんですよね。お腹が空いてないのに狩りをするライオンみたいなものでしょうか。レクリエーションですね。これが虐待の真実かもしれません。クズがよぉ……(怒)←と単純にキレるのは簡単で無責任ですね。

 

 でもね、ネタバレになりますが、じつはこの話、読者のタイプによってはスカッとポイントがあるんですよね。いじめられてた稔が赤黒い鬼になって大暴れするので。もしかしたら、そこが気持ちいい!と感じる読者はんもおられるかもしれません。というかたぶん稔が主役なんだろうなぁ。でもなぁー。なんかイロイロとステレオタイプの色を、漂白しきれなかった感が、なんだかなぁぁぁ。正直、これよりも第155回芥川賞候補だった『短冊流し』のほうが…でもあの時はタイミングがな…ぽよぽよ

 

とはいえ本作『送り火』は、印象的な場面やすばらしい文章の宝庫です。

とくに、七年間地中で過ごした蝉の幼虫が成虫へと羽化する瞬間を目撃しようとしている場面はたまらんかったです。蝉が羽化(脱皮)の途中で死んでしまう。それを見て晃は暗い怒りを燃やす。すさまじい文章で、読んでいると同じ場所に立ち会っているかのような気持ちになり、おもわず鼻息が荒くなってしまうふがふがでした。

 

 

また、舞台となった地方の灯籠流しの習わしの起源について、

「数百年前、黒森山の向こうからバッタに似た大量の蟲が飛来し、集落の作物・食糧・人間を襲った。船の帆柱に火をつけることで禍言(まがごと。その蟲の名は不吉とされ禁句になった)を焼いて村の外へ流す習わしができた。」という農民の説と、

「六百年以上前、親王と豪族一族が共に津軽へと落ち延び、黒森山の向こうからやってきて、土地に棲みつき、集落をつくった。葦舟の帆柱に火をつけて河に流す習わしはそのころできた。」という晃の説があり、民俗学的な、普遍的なおもしろさがあるのかしら~と思いました。最後も、みっつの巨大な藁人形(三隻の葦船)に火をつけ流すわけなので、もしかしたら黒森山の向こうからやってきて災いをもたらした何ものかを呪うための儀式なのかも。

 

※ちなみに、私は小学校、中学校と転校生だったため、どうしても歩に感情移入してしまうのでした。チート転校生時代の、自分の傲慢と無関心が露呈したような感覚(はずい!)。その剥き出しの部分を攻撃されたみたいな…、ありていにいえば「耳が痛い」状態に陥りました。『短冊流し』のほうがおもしろかったし!ぷん。というのはだから空威張りでもあるのです。

 

 

送り火

送り火

 

 

 ↓これに初出。この時さ、新人賞受賞者なしで審査員ぶちぎれてるんだけど、とくに川上未映子はん批評⇔悪口の境目をゆらゆらしてゆ(号泣)、エイミーの毒舌を継ぐかんじなのかな。綿矢りさは安定の女神(キモオタスマイル)。

文學界2018年5月号

文學界2018年5月号

 

 

↓私のいちおし『短冊流し』併録です。ちょー×2プールサイド本(水辺で読みたい本)です! 

スイミングスクール

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♡了♡