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『地球星人』村田沙耶香

芥川賞作家 村田沙耶香『地球星人』

こんにちぷにぷにっ。どうも、りょうごくらむだです!YouTuberのふくれなちゃんがだぁいすきだわんわん!今日は村田沙耶香の新作『地球星人』の感想を書きたいと思います。なんか七十歳の評論おじさんみたいな硬い文章になってる(いい意味!!!!!で!!!うそ!!わかんない!!!いいとこもわるいとこもあるよね!!)けどゆるして…。最後らへんはぷにぷにだよ。では行きませう。

 

地球星人

地球星人

 

 

 

あらすじ

小学六年生の夏に性暴力を受けて、奈月の身体は故障した。母と姉に虐待される生活のなか、唯一の味方であるいとこの由宇と「なにがあっても生き延びること」を誓いあい恋人同士となるが、ある事件をきっかけに引き離されてしまう。

22年後、34歳の奈月は性的関係を結ばないことを条件に人嫌いの智臣と結婚し、ルームシェアのような同居生活を送っていた。しかしその平和な生活は、二人に「地球星人としての夫婦生活」を強いる親類縁者により破壊されてしまう。

奈月と智臣は、長野の限界集落へ逃れ、いとこの由宇も引き入れて、異星人として生きていくことを選択する。

 

感想(ネタバレ注意)

主人公の奈月は、世の中を「地球星人」の運営する「人間工場」として見ている。彼女の目には「宇宙人の目」が備わっているとされる。翻訳するとこれは「常識を脱ぎ捨てた目」、「赤ん坊の目」つまり哲学者や民俗学者の目のことであるとわたしはおもう。

奈月は小学生のころから、周囲をよく見ている。自分を虐待し、家庭の支配者のようにふるまう母や姉が、じつは学校や職場では疎外された存在であることを知っている。その観察眼の視野はひろく透きとおっている。

さらに奈月には抑えの効いた自己批判精神がある。「地球になじめない」ことを他者のせいにはしない。自分自身が「地球星人の洗脳をきちんと受けられない」ためにそうなのだと独白する。〝私の子宮も、夫の精巣も、きっと私たちのものではないのだろう。それなら、早く脳まで洗脳してほしい。〟そう考える奈月にナルシシズムは感じられない。だが読者には、この悟りがむしろ悲しく冷えてみえるだろう。はやくその独自性でこの世界を改革してくれと思ってしまう。いとこの由宇も同じで、「人間工場」になじめず、なじもうとしながら生き延びてきた。彼が身に着けた「常識」は、彼を安心させる。〝常識は伝染病なので、自分一人で発生させ続けることは難しい。〟そして、〝常識に守られると、人は誰かを裁くようになる。〟悟った奈月と、奈月を社会常識で裁く由宇。読者はしだいにモヤモヤしはじめる。これらのフラストレーションを解消してくれるのが、奈月の夫・智臣の言動である。滑稽で愛らしいキャラクターとしてデザインされている智臣は、奈月とは反対に、世の中に迎合することを極端に嫌っている。

〝「何で僕が、僕であることを(他者に)許されなければいけないんだ。まっぴらだ!」〟〝「本当に怖いのは、世界に喋らされている言葉を、自分の言葉だと思ってしまうことだ。」〟など、はっとさせられる名言をいくつも放つ。

 

また、「社会常識というウイルスに侵された人間は、人を裁く」というテーマが描かれるもうひとつの重要な場面がある。

奈月が性暴力被害者であると親友に打ち明けたときのことを、思い返すシーンである。その親友は、伊賀崎先生がイケメン青年だったことを理由に奈月の性暴力被害は「妄想だ」として、むしろ奈月を責めた。

以前ジャニーズの一員により起きた「女子高生強制わいせつ事件」を顧みれば、同等のことが起きていたのだとわかる。『イケメンにいきなりキスされてもいいじゃん』というおぞましい「社会常識」が、性暴力被害者を生み出しつづけているのである。

智臣が最初に近親相姦(強姦)をすると宣言したとき、由宇はあわてて止めたが、奈月は〝「そんなことは、目に見えないだけで、世界中で起きていることだよ。それがまた起こる。それだけのことだよ」〟という。この「一般化」は、心的外傷を和らげる方法として手っ取り早い応急処置である。ここにも奈月の葛藤の一端があらわれている。

〝世界は恋をするシステムになっている。恋ができない人間は、恋に近い行為をやらされるシステムになっている〟。この社会システムの犠牲になった奈月のような人間は、読者が想像しているよりはるかに多いだろう。そしてこの犠牲者たちが、いまは少数だろうが、いつかシステムは転覆させ、新たな世界を創造するのかもしれない。

 

いまの地球星人は「人間工場」において、働く道具と産む道具を製作しつづけている。社会常識は、工場運営の効率化のためのウイルスに過ぎない。そのウイルスは大衆に素早く伝染して、他者を裁かせ、犠牲者を量産する。

洗脳を受け入れてあるていど楽に生きるか、それともポハピピンポボピア星人になって真に生きる道を手に入れるか?

現実世界でも、この2つのうちどちらかを選ぶことができるだろう。なぜなら作中における長野県秋級の限界集落と同様、人間のいなくなった「工場跡地」がいまやあちこちに存在するので、ポハピピンポボピア星人が台頭しやすい環境が整いだしているのだから。

地球星人は常に「宇宙人の目」で見られていることを意識したほうがいい。そして、ある場合にはこの「宇宙人の目」を自分自身にダウンロードし、世の中を見回すことが必要なのだ。社会システムの犠牲者を増やさないためには、なおさらこの目が要るだろう。

 

詳細ストーリー(極ネタバレ注意)

(全6章、原稿用紙380枚

1

主人公/語り手の奈月小学一年生のとき、魔法少女になった。ポハピピンポボピア星からやってきた、ぬいぐるみの姿をしたピュートと出会ったのが事の始まりだった。このことを知ってるのは、いとこの男の子、由宇だけ。由宇は小学三年生のときからの奈月の恋人でもあり、宇宙人でもある。

小学五年生の夏休み、お盆におばあちゃんちで再会した奈月と由宇は、「結婚」する。針金の指輪を交換し、「なにがあってもいきのびること」をお互いに誓い、それぞれの家へ別れる。

2

奈月は地球を「人間工場」として見ていた。その「人間工場」の部品である自分たちは、働く道具になることと、この街のための生殖器になることが最終目的なのであった。奈月は、せめて働く道具になろうと、塾での勉強に力を入れていた。

塾講師の伊賀崎先生は、大学生アルバイトであり爽やかイケメンで、女子や母親たちに人気がある。しかしその実態は、性暴力をふるう小児性愛者だった。性被害にあった奈月は、母に性暴力を受けたことを訴えかけようとするが、「あんたがいやらしいこと考えているだけだ」と一蹴されてしまう。奈月はこの状況から逃れようと魔法を使い始める。

 お盆まであと一週間というとき、奈月は性暴力犯罪者・伊賀崎先生に騙されて、口のなかに陰部を挿入される。奈月は魔法を使って幽体離脱するが、口蓋を侵されたため、味覚が壊されてしまった。伊賀崎先生の暴力から逃れられない限り、他の感覚もつぎつぎ損なわれ、いずれ自分の身体が完全破壊される=殺されることは、避けられないだろうと思えた。

2日後、おじいちゃんが亡くなったと連絡があり、奈月たちは急遽、長野へ行くことになる。お通夜の席で、由宇と再会することができた。

奈月は由宇に、ある大人に殺されそうだから、そのまえに由宇と身体の結婚がしたい、と懇願する。ふたりは夜空の下に風呂敷をしいて、裸になってセックスをした。

そのあと奈月は薬で自殺未遂をするが、由宇に止められる。ふたたび、「なにがあっても生き延びる(ここは漢字)」と誓う。だが大人たちがやってきて、奈月と由宇を引き離してしまう。 

3

あれから22年。奈月は34歳になっていた。夫の智臣と共に千葉のニュータウンに住んで3年が経つ。

夫の智臣が職場をクビになり、また奈月もちょうど派遣の契約が切れている期間だったため、夫婦で長野県の祖父母宅へ行き、秋休みの気分で一ヶ月を過ごすことにする。

いまや限界集落となった長野県秋級の家には、いとこの由宇がひとりで住んでいた。

1日1回バスが通るきりで、ネットが繋がっている家もない、タクシーにも断られるような、山に囲まれた家である。

奈月は由宇と22年ぶりの再会を果たす。

自分には「『宇宙人の目』がダウンロードされた」などと話す智臣に対して、由宇は警戒心をあらわにする。こどものころ自称宇宙人だった由宇だが、「もう大人なので」あれは空想に過ぎなかったとしているのだ。

地球星人の「人間工場」に「洗脳」されたくない夫の智臣、むしろ「洗脳」してほしい奈月、そして「自称・地球星人」の由宇は、3人で生活をはじめる。

奈月は小学生時代を回顧する。あの由宇との一件から、両親に軟禁されていたものの、塾の夏期講習は行かなくてはならなかった。早速、性暴力塾講師の伊賀崎先生から、「合鍵で家に来るように」と言い渡された奈月はピュートと相談して、「悪い魔女にコントロールされている先生」を助けようと決める。奈月は魔法をつかい、「魔女の蛹」を潰す。

翌日、伊賀崎先生が変質者ストーカーに殺害されたというニュースが入ってくる。奈月は友人の静の真似をして「怖い!」「許せないね!」と言いながら、伊賀崎先生の遺族と共にビラ配りをする。そのビラには【奪われた尊い命 犯人を許さない!】とある。

不安になってきた奈月が相談すると、ピュートは奈月が地球星人ではないこと、ポハピピンポボピア星人であることを教えてくれる。それきりピュートは話さなくなり、魔法も消えた。

こどもの頃は、自分を宇宙人であるとして、奈月が魔法少女であることも認めていた由宇だったが、22年後のいまは奈月のことを「自分に見えるものしか見ていない」と批判する。奈月は、自分は地球星人の洗脳をきちんと受けていないせいでそうなのだと思う。

翌日、貴世(奈月の姉)がやってきて、監視していることを遠回しに告げる。また、伊賀崎先生の遺族がまだビラ配りをしているので、手伝ってやったらどうかという。

いっぽう智臣は、「人間工場の跡地」のようなこの田舎にきたことをきっかけに、〝なに人間らしくないことをしたいと思う。それには人間のタブーを破るのがいちばんいいだろうということで、「さっそく近親相姦をしにいく」と宣言して下山した。そして奈月と智臣は「人間工場」へ連れ戻されることになる。智臣が兄と近親相姦しようとしたことが、舅を通じて奈月の両親にも伝わったのだ。

奈月の両親、智臣の両親、どちらからも尋問がつづく。母、姑、友人の静からも、『仲良し』という妻としての勤めを果たすよう忠告される。

姉は小学生時代の奈月が性暴力を受けていたこと(『いたずら』されていたこと)と、伊賀崎先生を殺したことを知っていた。

 

奈月は、自分を異星人とするのは精神病か思い込みだと、心のどこかでそう疑っていた。だが夫の智臣は、奈月が異星人であることを確信していた。そのため奈月が過去の殺人を告白しても、受け入れ、人殺しは怖くないという。そんな智臣に、奈月はポハピピンポボピア星人を伝染させる。

二人は由宇を迎えにいき、三人で離婚式をする。幼いころ「結婚」した奈月と由宇、そして奈月と智臣それぞれ、〝健やかなるときも、病めるときも〟助け合わず、〝命ある限り自分の命のだめだけに生きること〟を誓い合う。

 

三人のポハピピンポボピア星人は、秋級の家で新しく暮らしはじめる。地球星人の真似をせず、自分たちのアイデアで新しい文明をつくりだすため、知識や文化ではなく、ただ「合理」だけに従って物事をみるよう自主トレーニングを進めた。近隣から食物を盗んで食べ、ほとんど裸ですごし、電話線を切った。しかしある日、姉が奈月の伊賀崎先生殺人を遺族にバラしてしまい、伊賀崎先生の両親が奈月を殺しにやってくる。奈月は応戦し、初老の地球星人夫婦を殺す。食糧がなくなりかけていたので、地球星人を食べる。そのとき、やっと奈月の身体は修復される。ポハピピンポボピア星人の繁殖がはじまる。

 

 

  

登場人物

小学校時代

奈月…小学五年生、魔法少女

ピュート…ポハピピンポボピア星人。お年玉で買ったスーパーのぬいぐるみ

由宇…彼氏。宇宙人。母親の美津子さんに依存されている

貴世…姉。神経質で癇癪持ち、毛深く、学校でいじめられている

母…貴世を溺愛し、奈月を虐待する。パート先でハブられている

父…基本的に無口。六人兄弟

伊賀崎先生…小学生女子に性暴力をふるう塾の先生。大学生、イケメン

てるよしおじさん…よく子どもの相手をしてくれる。陽太くんのお父さん

陽太くん…名前のイメージ通り陽性の男の子

静ちゃん…同じ塾の友達

 現在

奈月…34歳、派遣社員。「地球星人」に「洗脳」される日を待っている

智臣…奈月の夫。「地球星人」に「洗脳」されるのを拒む

由宇…母が自殺したあと、一人で長野の祖父母宅に暮らす

母…姪が生まれてからねっとりとした話し方になった

姉…奈月の秘密を知っている。異性と性行為することを至上のことと認識

舅…智臣の父。「石女」とかふつうに言う

姑…智臣の母。孫が欲しい

 

 

☆おまけポイント

〝千葉の家だと小さなハエが入って来ただけで大騒ぎなのに、母や姉もおばあちゃんの家ではいちいち騒ぐことは無い〟など、都市と田舎の家のちがいが一文で表現されていて、さすがと思う。ほんとそうだよね!! また、土葬、数珠回し、送り火、お蚕様などの文化、おやき、すいこなどの食文化も随所に登場しほんのりとした郷愁を誘います。

 

村田沙耶香のおすすめ作品はーと

(さやかのさは、さんずいの沙!)

『地球星人』は、村田沙耶香の他の作品『殺人出産(『トリプル収録)』コンビニ人間』を足して、さらにパワーアップした感じのお話でした。あと『ギンイロノウタ』もですね。村田沙耶香さんは講談社の新人文学賞群像新人賞」でデビュー。デビュー作『授乳』につづき『マウス』を講談社から出しています。新潮社で『ギンイロノウタ』を出した後、講談社から『星が吸う水』を出版。もうこれぜんぶ傑作ですよん。ほへえ、『消滅世界は河出、コンビニ人間』は文藝春秋なのですね。(ういきぺでいあ見てる)

ところで、なんでもランキング化する頭の悪い私がふたたびランキングするです。まあこのランキングでわたしの偏愛傾向がわかるんちゃう。

1位『授乳』2位『星が吸う水(ガマズミ航海』)』3位『消滅世界』4位『地球星人』←NEW!5位『殺人出産(『トリプル』ほか)』6位『マウス』7位『コンビニ人間』8位『ギンイロノウタ』9位『しろいろの街の、その骨の体温の』

タダイマノトビラとハコブネは未読でありまする。ちなみに、人におすすめするならNO1は確実に『マウス』!!!!実際におすすめしとるます。『コンビニ人間』はだいたいみんな読んでるのでね。

 

 

マウス (講談社文庫)

マウス (講談社文庫)

 

 小学五年生の主人公が、浮いた存在のクラスメイトに出会い人生を変える物語。人間工場のすみに身を隠す奈月と、人間工場に抗う智臣との対照に似ている。だが『マウス』ではより地球星人の社会常識に沿った物語がつづられているため、より一般的な感覚にうったえ、「きもちよく」読めるはずだぷにぷに。

 

 

つーかこのブログ、コメ欄とじてるせいでマジ鎖国だ――……つらい…