感想

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『パルチザン伝説』ー桐山襲

みなさま、こんにちは。いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。

ライターのりょうごくらむだです。

パルチザン伝説

パルチザン伝説

  • 作者:桐山 襲
  • 発売日: 2017/08/18
  • メディア: 単行本
 

 

テロ小説を一本紹介しようかなと思いつきました。

パルチザン伝説』という、まごうかたなきテロルな小説です。

紹介していきますぞえ。
 
パルチザン伝説』桐山襲著 ※時代が時代なんで差別的な表現があります
 

構成

<僕から兄へ1通目の手紙>→<Sさんの手記>→<僕から兄へ2通目の手紙>
大まかに分けてこんな感じ。
1通目の手紙から2通目の手紙までの空いた期間は2か月ほど。
 

登場人物

テログループの一員として公安警察に追われ、八重山列島らしき場所に逃亡中。爆発事故で片目と片手を損傷した。
兄さん
党員として逮捕された。出所すると一言も口をきかない「唖者」となっていた
大井聖(父)
僕が2歳のときに失踪あるいは死亡した
穂積一作(父)
こっちが本名らしい。新聞記者。第二次世界大戦終戦のときの「反乱因子」だった
 
昼のバイトのほか売春ぽいことをしてお金を貯め、兄と僕と妹を育てた。兄とただならぬ関係にあったらしい。
15歳で家出。娼婦になった
Sさん
下半身に麻痺があり、徴兵されなかった大学生。趣味は油絵
M大尉
穂積の知りあいの近衛師団の大尉
あの男
 
 

年表

1944年 S19歳 穂積一作が油絵を見て訪ねてくる
1951年 秋 僕2歳 兄4歳 父、大井聖が失踪する
(1960年代後半、学生たちの社会的反乱がスタート、70年代初頭に敗北決定する。僕らのグループはそのころに地下に潜った)
母30代前半「金箔荘」の四畳半で三人暮らしがスタートする
1954年 異父妹が生まれる
1960年 6月、「土地付きの小さなアパート」へ引越す。
1967年 母が再婚する
1969年 11月中旬までごろ、兄さん逮捕される
     (11月16日―17日 佐藤栄作訪米阻止闘争)
     12月 母が亡くなる
     妹、15歳で家出
1972年 1月~2月 銃撃戦の山岳基地で党員14人が処刑される(兄さんの恋人がいた可能性)
    兄さん、一言も口をきかない者として出所する
1973年 秋。男女7人グループは「あのこと」を計画
1974年 8月12日、14日の計画を実行するため準備する
    8月13日、公安らしき「敵」に包囲され、計画を断念する
 M企業爆破事件で100人の死傷者を出し、意見が割れ、僕だけ離脱する
1975年 僕以外のグループのメンバーが逮捕され、監獄へ入る
1977年 O市のアパートで誤爆、僕は片目と片手を失う
1982年 4月 僕は兄に手紙を書く
 
 

あらすじ

主人公は企業や天皇を狙う爆弾テログループから離脱したのち、自宅で爆弾を誤爆させ、片目と片手を失って命からがら逃亡をつづけ亜熱帯の孤島にたどり着いた。
その孤島から兄に手紙を書いている。子どものころ失踪したお父さんについての手紙である。お父さん「大井聖」は、<異形な者>だった。片目・片手を失い、口をきかなかった。これは主人公が爆弾事故で片目と片手を失ったことに通じている。 
しかも、兄もまた「闘争」で逮捕され、出所後には一言も口をきかなくなっていて、お父さんと一緒なわけである。
そんなお父さんの謎を解いてくれるのが、Sさんの手記である。お父さんとSさんは第二次世界大戦が終わる直前に出会い、日本国本土決戦をさせるために爆弾を作っていたのだった。
 

豆知識

佐藤栄作訪米阻止闘争…日米安保条約が期限切れとなる1970年を前に、佐藤栄作が訪米し、条約継続の話し合いをする予定だった。
それを、新左翼が阻止しようとして、2,500人以上逮捕された。1967年から続いた学生運動のピークアウト的な事件だった
※作中の詩歌は、ブレヒトの『赤軍兵士の歌』1919年1月 バイエルン革命の戦士を歌っているとされている    
 
 
 
 

好きじゃないところ、感想

苦しいな。主人公の、天皇を狙うことの理由がさ、「戦争責任を持ちながら、その負債を返さず復興の歩調に合わせる欺瞞だらけの我らがお父さん軍団、その父のボスである「あの男(昭和天皇)」を倒すのが自分らの義務、ってかむしろ存在意義だと思った。」っていうようなものなんだけども。
なんか苦しいよな。わたしからすると、わかるような気がする一方、へりくつだよな、って思っちゃうんだ。
あと、「僕には天才的語学能力があるので、やんばるの方言をそっこーで体得し、現地人並みに喋れるようになっていた。だからシャーマンのお手伝いをして生き延びた」っていうところも、天皇ってシャーマンやん? って思うと、やはり欺瞞を抱えているのは主人公自分自身なんでは???と思ってしまうし。
まぁ、わたしには重すぎるのかもしれない、っていうか、ベクトルが違うのかもしれない、って逃げたくなっちゃうような本。
 
なんていうか、徹底的に、可愛くないんだわ。登場人物全員、かわいげゼロなのよ。
あまりにも、あまりにもね。
一人くらい、可愛い人がいたっていいじゃない! 
と思ふ。
そうかんがえると、自分が好きな小説って、たいてい、登場人物が可愛いんだよな。
こころも、響きと怒りも。オルハン・パムクの「雪」なんか可愛さの塊やん?(オルハン・パムクの小説そこまで好きとはいえないけど、いま本棚をみて思った)なんかね、やっていることはファイト・クラブなのに、重々しいというか、女々しいというか、いやらしいというか、粘着質というか、事をものすごく重々しく脂っこく書いていて、なんかそれが、むしろ軽さを引き出してしまっている、という感じがしたな。
 

好きなところ、感想

よいなぁと思ったのは、Sさんの手記のクライマックスですね。穂積が最後の潜入をしたあたりで、植物みたいな(白いアスパラ・・・?)宮廷の人が出てくるの。あのシーン、なんかすごいエロティックで好き。一生、心に残ると思う。
あ! あと「影男」はゆいいつ、この作品中で可愛げある人物かも。いるかどうかもわからないんだけどね…。わたしのなかでは、ソニックをもっと毛だらけにしたイメージです。もこもこ影男です。