感想

くらげなす漂うアメリカンアパレル

kemioの本『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』は、全ページにツキが宿る良書

 

ウチら棺桶まで永遠のランウェイ

ウチら棺桶まで永遠のランウェイ

 

 

 

 こんにちは、ライターのりょうごくらむだです。今回はYouTubeで人気を博したアメリカ在住のアーティストkemioさんによる書籍『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』についての感想を述べますぞ。

なんでアーティスト。私にとって表現者はアーティだからだよ 

 

 

 

 

 

kemioとは?(知らないひとのために)

1995年生まれのタレント/youtuber/モデル。動画配信アプリvineから火がつき中高生の人気者になった。フォロワーがいっぱいいてそのわりにアンチは少なめという稀有な存在。楽曲を出したり、今回のように本を出したりとマルチに活躍中である。2016年に単身渡米、現在はアメリカの事務所に所属している。2018年の中・高校生の流行語となったあげみざわ」「泣いたー」の発信源。独創的な言葉遣い、意外な礼儀正しさ、「口から文化祭」なる早口オノマトペYouTube視聴者を楽しませている。

 

全4章!kemioの半生と、生きるヒント

『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』は、全4章からなる回想録である。

第1章ではkemioの幼少期から渡米までを振り返る。悲しかったこと、嬉しかったこと、親友のナディヤちゃんのことなどをめぐり、考えてきたことや気づいたことを述懐している。「みんなをハピネスにしたい」という決して変わらなかった気持ちと、オーディションに落選しつづけるなかで見つけた、ひょんなきっかけ。また、いままで公表していなかった、ある事務所に参加していた件などが記される。軸ブレしない頑なさと、その真逆の柔軟さがすんなり同居している、kemioの人間性のバランスの良さが垣間見える。

第2章では、人間関係の光と影について書かれている。対人ストレスの対処法や、「嫌い」という感情の魔術的側面について語られる。ここからお悩み相談室的な向きもあるので、悩むことが多い人々の助けになりそう。kemioは綴る。

「気にしいの人が多い世の中、マウンティングだとかすぐ言われちゃう世の中、どう取られるか考えすぎたら何もできないんだよね。(p101)」

お金のない若い子が気軽に楽しめるブログ記事やウェブコラム。そうしたものには閲覧数を集めやすいものが書かれがちである。閲覧数を集めやすいものとはなにかというと、意外にも不安感を煽るものだったりする。みんな嫌われたくないし、傷つけたくないし、傷つきたくないのだ。そうした、いわば安い記事にとらわれると、身動きが取れなくなるのではないか。その場合どうすればいいのか。kemioの経験からいって、実際に自分がおかしな言動をしているときには、友達が注意してくれるという。だから信用できる友達の前では子供のように素直になって、自分をさらしてみることも大事なのではないか。なんとも等身大でやわらかな意見である。

「自分の人生は自分のもの。(中略)誰かの反応だけを求めて頑張ってるんだったら、それはもう人生じゃなくて演劇活動よ(p86)」

 

第3章は恋愛編。いままで公表していなかった自身のセクシュアリティについても書いている。書く決断をした理由に感動してしまった。kemioはほんとうにみんなをハピネスにしたいんだね、すごいよ、と頭が下がった。また、あまり経験がないとしながらも、性/恋愛対象とのフィジカル/メンタルな関係について語っている。「出会って1回目で実技試験しちゃった人とは恋愛ジャンルでの実験失敗(p139)」であり、いきなりやってしまうと「消えてしまうリスペクトもある」という。それな…。

 

 第4章では、選挙やジェンダーについて触れながら、現実への対処方法や「病む」ことについて書いている。才能ないから・・・と悩んでる人へ向けて、「やる前ってやめどきじゃなくない? p158」と言うkemio。前に進めないけどもがいている人の背中を押してくれる、ハッピーなだけじゃない強いメッセージがある。

 

文芸書として評価は見送る、still、彼の日本語は面白い

本書は全編、オリジナリティたっぷりの口語で貫かれている。リズムがあり、響きが面白いその口調は、まさにyoutubeで視聴するkemioそのものといった感がある。だが不思議と、距離を感じてしまうのは、私がバス金ロビンス※1だからだろうか? いやべつにおばさんになったわーとかじゃなく、同時代性に欠ける読者という意味でである。町田康や初期の川上未映子綿矢りさなど、独創的な口語体で書かれたものは多々あるが、エッセイにしてもフィクションにしても、それらは本来、読者と著者とのあいだの距離をぎゅっと縮めるものではなかろうか。kemioの場合そうはいかなかった。おそらくYouTubeのkemioと文章のkemioが一致しすぎているからだろう。ふつう文章を書くとき、ひとは構えてしまうものだ。kemioさんにはそれがない。逆に、ってことだろう。逆に、作家じゃないからこそ、構えがなく、だから呪術的効果も起こっていない。わるいことではない。しかし世の作家の文章って、どんだけビシッとよそゆき風でも、なぜかその行間に皮膚感がただよっているものなのだなぁと思う。肉薄、しちゃう、そこが純文の好さみである。よさみぃぃぃーーーーー!!

ともあれ、kemioの書いた文章は、彼のおしゃべりと同様に面白い。 「必要性にしびれたら、人ってやるものだもん(p163)」など、彼だからこそ出てくる表現がそこここに見られる。コアなファンにとってはもちろん必携の書であるし、私のようなライトだけど応援してますよー的な層にとってもまた良書である。なにより、この本、ハピネスオーラがやばい。占い本のように、えいやっと開いたところの文章が今日のワンポイントアドバイス!みたいな感じで活用することもできそうだ。

ちなstillってアメリカ英語だし口語でしか使わないらしい。さげみーーーーみーーーー(でっかい声で言ってみたいバス金ロビンス)

 

とにかくさらっと読めて、ばしっと元気になって、なんでもできちゃいそうな気がする。kemioパワーですね(洗脳)

 

 ※1 31アイスクリームの正式名。転じて、31歳であること

 

 

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